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クリニック第三者継承の基本

2025/06/04

クリニック第三者継承の基本

1. 第三者承継とは何か?――“血縁以外”への事業継承という選択

高齢化が進む日本の医療業界において、「親族に医師がいない」「スタッフに引き継げる人材がいない」といったケースが増え、従来型の親族承継が成立しづらくなっています。こうした状況を背景に、近年注目されているのが「第三者承継」、すなわち“血縁関係にない医師や法人にクリニックを譲る”という選択肢です。この第三者承継では、M&A(事業譲渡や株式譲渡)という形式が一般的に採用されます。買い手となるのは、個人医師だけでなく医療法人やヘルスケア系企業などさまざまで、売却対象にはクリニックの設備やスタッフ、患者基盤などの無形資産も含まれます。

第三者承継の最大のメリットは、親族や内部人材にこだわらず、より広い選択肢から最適な後継者を選べる点にあります。これは、「承継はしたいが適任者がいない」という多くの院長にとって、現実的かつ柔軟な選択肢となっています。また、契約内容や引継ぎ条件を一から構築できるため、法人化や複数クリニック展開など将来的な拡大を視野に入れた承継設計も可能です。一方で、リスクも存在します。診療スタイルや組織文化が変わる可能性が高く、スタッフや患者の離反リスクがあるという点です。「誰に引き継ぐか」がクリニックの今後を左右する重要な経営判断となるため、金額面だけでなく、理念や地域との相性、診療方針の継続性などを丁寧に見極める必要があります。

さらに、事前にクリニックの経営状態を「見える化」しておくことが極めて重要です。これは、買い手の信頼を得るだけでなく、スタッフや患者にも安心感を与える要素となります。財務状況、診療実績、顧客リスト、スタッフの雇用条件などを整理し、専門家のアドバイスを受けながら「譲れる状態」を整えることが、成功の鍵です。第三者承継は、親族承継や廃院とは異なり、「未来に向けた積極的な戦略」として取り組むべきテーマです。地域医療を絶やさず、院長の築いてきた価値を次代へとつなげていくために、計画的かつ戦略的な承継の視点が求められています。

2. 承継プロセスの流れと注意点――スムーズな引き継ぎに必要な準備

第三者承継を成功させるには、単なる買い手探しにとどまらない“段取りと設計”が不可欠です。承継は一つの契約ではなく、複数ステップを経て初めて完了する「プロジェクト」だと捉えるべきでしょう。

一般的な承継プロセス

  1. 現状分析・可視化(クリニックの棚卸し)
  2. 承継方針の整理(売却か出資か、設備・雇用条件の取扱い等)
  3. 買い手候補の選定・交渉
  4. 基本合意・デューデリジェンス(法務・財務調査)
  5. 契約締結・引継ぎスケジュールの策定
  6. スタッフ・患者・地域への説明・広報
  7. 実際の引継ぎ(診療・運営・経理等)
  8. 引継ぎ後のフォローアップ(最低半年程度が理想)

なかでも重要なのが、初期の「現状分析と方針整理」です。ここを曖昧にしたまま進めると、買い手と合意形成が難航したり、引継ぎ後にトラブルが発生したりするリスクが高まります。例えば、「土地・建物の所有形態」「医療法人か個人事業か」「スタッフの雇用継続条件」など、形式面での整理は早期に行うべきです。事業譲渡と株式譲渡で譲れる資産や負債が異なるため、手続きに詳しい税理士や行政書士の助言が必須です。また、買い手候補の選定においては、「診療科目」「経営理念」「地域性への理解」などの整合性を丁寧に確認することが不可欠です。売上実績や医療機器の有無だけを重視するM&Aでは、現場の混乱や患者離れを招く危険があります。

患者・スタッフへの情報開示タイミングにも注意が必要です。早すぎると不安を招き、遅すぎると「裏切られた」と感じられることもあります。理想は契約合意と同時期に、段階的かつ丁寧な説明を実施すること。この説明がうまくいくかどうかが、患者の継続率やスタッフ定着率に直結します。さらに、承継後も前院長による一定期間の「引継ぎ同行」を行うと、患者・スタッフ双方に安心感を与えることができます。承継は“終わり”ではなく“始まり”という意識で、半年~1年のフォロー体制を設けるのが理想です。第三者承継の成功は、準備と実行の精度にかかっています。単なる“売却”や“引退”と捉えず、地域医療を継続させる経営上の決断として、段階を追った丁寧なプロセス設計を心がけましょう。

3. 失敗しないためのポイントとSECONDの視点

第三者承継がうまくいかないケースには、いくつか共通する“つまずき”があります。特に多いのが、「急いで相手を決めてしまった」「契約だけ整えれば済むと思っていた」「現場の視点が抜け落ちていた」といったケースです。こうした失敗は、経営者本人が「引退」をゴールに設定してしまい、承継の“その後”にまで意識が及ばなかったことに起因しています。

まず第一に必要なのは、譲渡する側の「譲る覚悟」と「見せる整理」です。これは単なる感情論ではなく、クリニックの情報開示や契約条件の整備といった実務レベルの話を指します。医療機器のリース契約、医療法人の名義、スタッフ雇用条件、地代家賃や診療圏など、継承候補者にとっての“安心材料”をきちんと整えておくことが、交渉のスタートラインになります。また、買い手側も譲受後の診療体制や地域との関係性に配慮することが求められます。診療スタイルの違い、働き方の変化、スタッフの処遇方針などを丁寧にすり合わせなければ、現場に混乱が起き、患者離れやスタッフ離職につながることは珍しくありません。

さらに、第三者承継は“ビジネスの売買”であると同時に、地域社会との信頼関係を受け継ぐ行為でもあります。譲渡契約の成立=事業の継続とは限らず、承継後も外来が安定しない、トラブルが多発する、地域の紹介ルートが途絶えるといった課題に直面する可能性があります。このような事態を避けるには、現場を知り、医療業界に精通した第三者の支援が必要です。一般社団法人SECONDでは、クリニック特有の経営構造と地域医療の現実をふまえたコンサルティングを行っています。売却交渉だけでなく、患者やスタッフとの橋渡し、診療圏調査や法務サポートなど、段階的な承継支援を一気通貫で提供しています。

とくに、医療と経営の双方を理解する第三者が関与することで、当事者では見落としがちなポイントが明確になります。これは承継の“質”を担保する意味でも、非常に重要な視点です。承継とは「クリニックを譲ること」ではなく、「地域の医療をつなぐこと」です。買い手・売り手・地域、それぞれの立場と未来を見据えながら、短期的な視点にとらわれずに進めることが、結果として満足度の高い承継につながります。

クリニック承継関連データ

関連する統計データ

項目 数値 出典
開業医の平均年齢(2023年時点) 61.2歳 厚生労働省 医師・歯科医師・薬剤師統計
70歳以上の開業医の割合 34.8% 日本医師会
親族承継率の減少(2010→2020) 45% → 22% 中小企業庁『事業承継ガイドライン』
第三者承継の割合(2020年時点) 約26% 日経メディカル
クリニックM&A後の売上減少事例率 約30% 医療M&A支援会社調査
M&A後1年以内にスタッフ離職が起きた割合 約40% SECONDコンサルティング事例
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