2025/09/16
分院長(分院管理医師)の成功と失敗
クリニック分院開業において、もっとも大きな経営上の論点の一つが管理医師(院長)のあり方です。個人開業の場合、開設者自身が管理医師を兼ねるため、売上や患者数の増減がそのまま生活設計や報酬に直結します。したがって、自ずと診療の質や集患に対する意識は高くなり、経営者としての責任感を強く持ちます。一方で、分院の管理医師はあくまで法人に雇用される立場であり、開設者本人ではありません。そのため、経営上のリスクや収益増加の恩恵を直接的に享受しづらく、売上や患者数に対する当事者意識が希薄になりやすいという課題があります。結果として、立地や設備に恵まれていても、管理医師に経営的な意欲がなければ、分院が軌道に乗るまでに時間がかかり、法人全体の成長が鈍化する可能性が生じます。
さらに、管理医師の採用・定着にもリスクがあります。職歴を確認すると、分院の管理者を短期間で転々としているケースや、複数の地域で管理職を務めてきた経歴が見られる場合があります。これらは責任意識の希薄さや組織との相性の悪さを示唆するものであり、十分な確認を怠れば、任せた後に突然辞めてしまうリスクを抱えることになります。また、報酬体系の問題も大きな課題です。分院の管理医師は多くの場合、固定給で成果連動性が弱いため、診療数や売上に積極的に関心を持ちにくい傾向があります。その結果、「最低限の診療をこなせばよい」という意識にとどまり、サービス向上や集患への主体性が生まれない危険性があります。この課題を解決するには、契約段階からインセンティブ制度を明確に設計することが有効です。例えば、患者数や診療報酬額に応じた報酬増加、患者満足度やリピート率を評価に反映する仕組みを導入すれば、管理医師のモチベーションは高まり、法人と管理医師が同じ方向を向いて経営を推進できるようになります。
つまり、分院開業における管理医師の課題は、経営意識の希薄化・採用定着の難しさ・報酬制度の不透明さに集約されます。これらを解決するためには、法人と管理医師の間で信頼関係を築き、契約の段階から明確な責任と評価基準をあらかじめ戦略的に設計し導くことが大切となります。
管理医師の重要性
個人開業の場合、開設者=管理医師であり、診療所の運営全般に対して責任を負います。診療の質はもちろん、患者数の増減や売上はすべて自身の人生設計や報酬に直結するため、売上を伸ばすこと=自己実現という強いモチベーションが自然と生まれます。そのため、個人開業医は診療と同時に経営者としての意識を高く持ち、日々の診療行為やサービス提供に対しても、経営的な視点を欠かさず注力する傾向があります。
これに対し、分院の管理医師は法人に任命される立場であり、自身が開設者ではありません。そのため、法人全体の経営責任と自己の責任が一致しにくく、経営数字や収益への当事者意識が希薄化しやすいという構造的な課題を抱えています。たとえ立地条件が優れていて、最新設備を備えていたとしても、管理医師に経営的視点や売上に対する意欲がなければ、分院が収益化するまでに大きな時間を要することになり、法人全体の経営戦略にも影響を与えかねません。さらに、分院の管理医師は多くの場合、固定給が中心でインセンティブ要素が弱い契約形態となっています。そのため、診療数を増やしても直接的に報酬が増えないことから、「一定の診療をこなせば十分」という意識にとどまるリスクがあります。このような状況は、法人にとっては成長のブレーキとなり、せっかくの分院展開が期待どおりの成果を上げられない原因となります。
したがって、分院経営においては、管理医師をいかに経営のパートナーとして意識付けするかが最大の課題です。報酬制度やインセンティブ設計を通じて、「経営成果=自身の評価」とリンクさせる仕組みをつくれば、管理医師は患者満足度の向上や診療効率の改善に積極的に取り組むようになります。法人と管理医師が同じ方向性を共有することができれば、分院は早期に収益化し、法人全体の成長を後押しする存在となるのです。
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管理医師の見極め方
分院の成否を大きく左右するのが、誰を管理医師に据えるかという判断です。医療法人が分院を開設する際、立地や資金計画と同じくらい重要なのが人材選びであり、管理医師の適性を誤ると、分院の経営は早期に行き詰まる可能性があります。そのため、候補者の履歴書・職歴の確認は、採用判断におけるもっとも有効なアプローチの一つです。
過去に分院管理者を複数回経験している場合
候補者が過去に複数の分院で管理医師を務めていた場合、経験が豊富という一面もありますが、短期間で異動や退職を繰り返している背景を慎重に確認する必要があります。理由が「法人の方針転換」や「医療法人の事業縮小」など合理的な場合もありますが、組織への定着力や責任感の不足が原因である可能性も否定できません。
管理医師としての在任期間が短い場合
数か月〜1年程度で辞めている経歴が目立つ場合は、経営方針との相性が合わなかった、あるいは責任の重さに耐えられなかったことが推測されます。管理医師は医療の責任者であると同時に、法人の理念や方針を現場に落とし込む役割を担うため、短期で退職する傾向がある人物は、法人の中長期的な経営戦略に適合しにくいリスクがあります。
広域にわたって管理医師を務めている場合
候補者が複数地域にまたがって管理医師を兼任していた経歴がある場合、移動負担や勤務環境の過酷さが原因で長期的に持続しないことが多いです。さらに、責任が分散することで、一つひとつの分院に対して十分な統率を発揮できない可能性もあります。法人としては、候補者がどのような勤務体制でそれをこなしていたのか、具体的なシフトや労働条件を面談で確認することが不可欠です。
面談で確認すべき視点
これらの経歴が見られる場合、必ず面談で「なぜそのような経歴になったのか」を掘り下げて確認することが大切です。合理的な説明があればプラス要素になりますが、曖昧な回答や責任転嫁の傾向が見られる場合は、採用後に同じ問題が再発する可能性が高いと判断すべきです。また、経歴だけではわからない候補者の価値観・モチベーション・将来像を丁寧に確認し、法人の経営方針と一致しているかを見極めることが重要です。
管理医師を採用する際のチェックリスト
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経歴の安定性
過去の職歴に短期離職が多くないか確認する。1年未満の勤務が続いている場合は要注意。 -
分院管理経験の有無
過去に分院の管理医師を経験しているか。その際の成果や在任期間を確認する。 -
勤務地の広域性
広範囲に複数施設を兼務していた場合、持続可能性があるか、無理な働き方をしていなかったかをチェック。 -
経営方針との適合度
候補者の診療スタイルや価値観が法人の理念や方針と一致しているかを面談で掘り下げる。 -
責任感と当事者意識
売上や患者数に対して「自分ごと」として考えられる姿勢があるか。経営への関心度を確認する。 -
マネジメント能力
スタッフとのコミュニケーション力、チームをまとめる経験があるか。医療安全の意識が高いか。 -
患者対応の姿勢
診療技術だけでなく、患者説明・接遇の質を重視するか。口コミや評判につながる部分を確認。 -
報酬制度への理解と納得度
固定給とインセンティブのバランスについて、契約段階で十分に理解し、納得しているか。 -
長期的キャリア志向
「数年だけ働く」のではなく、法人の成長に合わせて長期的に関わる意思があるか。 -
リスク対応力
トラブル時やスタッフ離職時に冷静に対応できるか。過去にどのような対応経験があったかを具体的に確認。
分院の管理医師の立場
分院の管理医師は、多くの場合、実績に関わらず固定報酬を得る立場に置かれます。法人の理事に就任することが求められるケースも多く、その点では大きな責任を背負いますが、同時に「経営成果と報酬が連動しない」という仕組みの下に置かれているため、売上増加や患者数拡大が自らの給与に直結しないという構造的な課題があります。この状況は、管理医師の働き方に大きな影響を与えます。個人開業医であれば、患者数や診療報酬の増加はそのまま自身の生活や将来設計に直結するため、「いかに診療の質を高め、患者に選ばれるか」という視点が強く働きます。しかし分院の管理医師の場合、経営数値が個人の利益に結びつきにくいため、診療への姿勢が次第に「最低限の診療をこなせばよい」という方向に流れてしまうリスクがあります。
その結果として、法人全体の成長戦略を阻害する可能性が生じます。例えば、経営者側が「分院を足がかりに法人全体のシェア拡大を図りたい」と考えていても、管理医師が経営的な視点を持たなければ、患者サービスや集患施策に積極的に取り組まず、結果として分院の収益化が遅れる、スタッフの士気が下がるといった事態につながります。また、報酬が固定的であるために、患者満足度やリピート率の改善に対する動機付けが弱い点も問題です。法人としてはブランド価値の向上を重視していても、現場の管理医師がそこに積極的に関与しなければ、患者からの評価が安定せず、競合クリニックとの差別化が難しくなるでしょう。このように、分院の管理医師は診療責任は重いのに、経営的モチベーションが不足しやすい立場にあります。そのため、法人側は契約段階から報酬制度や評価基準を設計し、経営成果と個人の働きがしっかり結びつく仕組みを整えることが不可欠です。
契約内容とインセンティブは慎重に
分院経営において、もっとも大きな課題の一つが管理医師の経営意識をどう高めるかという点です。この課題を解決するためには、開業前の契約段階で報酬制度を明確にし、「努力が正当に評価される仕組み」を整えておくことが不可欠です。管理医師は診療責任を負う立場にありますが、固定報酬制のままでは、売上や患者数の増加が個人の収入に直結しないため、どうしても経営への主体性が弱まる傾向があります。そのため、法人側は成果と報酬をリンクさせる制度を導入することが求められます。
代表的なインセンティブの仕組み
- 患者数や診療報酬額に応じた報酬増加制度
一定の患者数や診療報酬額を超えた場合に、報酬を加算する仕組みです。管理医師は日々の診療における効率化や集患に自然と関心を持つようになります。 - 患者満足度やリピート率に基づく評価制度
数字だけでなく、サービスの質を評価に取り入れる制度です。アンケートや口コミ評価を活用することで、診療の質と経営の成果を両立させる効果があります。 - 分院の収益連動型の賞与や特別手当
分院単位の利益を基準に賞与や特別手当を支給する方法です。法人全体ではなく「自分が任されている分院の成果」と直結するため、責任感とやりがいを高める効果が期待できます。
契約段階での工夫
こうしたインセンティブ制度は、開業後に取り決めるのではなく、契約段階で明文化しておくことが重要です。基準が曖昧なままでは、開設者と管理医師の認識に齟齬が生じ、後々トラブルや不満につながります。インセンティブ制度は、単なる「お金の仕組み」ではなく、管理医師を経営パートナーに育てる仕組みでもあります。努力が正当に評価される環境を整えることで、管理医師はサービス向上や集患に主体的に取り組み、結果として法人全体の成長を後押しする存在となります。逆に基準が不透明なままでは、やる気の低下・トラブル・早期離職を招き、分院経営に深刻な影響を与える可能性があるのです。
- 「年間患者数が〇〇名を超えた場合、報酬を△△円加算する」
- 「分院の黒字額が□□円を超えた場合、収益の×%を賞与として還元する」
※といった形で、具体的な数値や基準を提示することで双方の信頼関係が形成されやすい。
成功と失敗の教訓
成功事例
ある医療法人では、分院開業の際に契約段階からインセンティブ制度を明確に設計しました。基本給に加えて、患者数・診療報酬額・患者満足度を評価指標とし、一定基準を超えた場合に報酬が上がる仕組みを導入したのです。さらに、分院単体の利益が一定以上になれば、管理医師に特別賞与を還元する仕組みを設けました。この仕組みにより、管理医師は単に診療をこなすだけでなく、「どうすれば患者満足度を高められるか」「地域で選ばれる分院にするには何が必要か」を主体的に考えるようになりました。具体的には、受付や待ち時間改善、スタッフ教育、SNSによる情報発信など、従来は経営者や本部が主導していた施策に対しても積極的に関与する姿勢を見せました。結果として、分院は開業から1年以内で黒字化を実現。新規患者の定着率も高まり、口コミによる紹介が増え、法人全体のブランド価値向上にもつながりました。法人側としても、管理医師を「雇用される立場」ではなく経営パートナーとして育成できたことが大きな成果でした。
この事例の教訓は、努力が正当に評価される仕組みを契約段階で整えることが、分院成功の鍵になるという点にあります。
失敗事例
一方、別の医療法人では、分院開設時に報酬基準を明確化しないまま管理医師に任せてしまったケースがありました。管理医師には固定給のみを提示し、成果に応じた加算制度や評価指標は設けられていませんでした。その結果、管理医師は次第に「診療を一定こなせば報酬は変わらない」と認識し、売上や患者数に関心を持たなくなりました。集患やサービス改善に主体的に関与せず、スタッフへの指示も消極的になったため、分院は開業から半年を過ぎても患者数が伸びず、赤字が続く状況に陥りました。さらに、法人本部が「もっと患者を増やしてほしい」と指摘した際にも、管理医師は「契約に明記されていない」「そこは法人側の責任ではないか」と受け止め、法人と管理医師の間で認識の齟齬が生まれました。最終的には管理医師が短期間で退職してしまい、再度採用を行う必要が生じ、開業コスト・採用コスト・時間的損失のすべてが無駄になったのです。その影響は分院だけでなく、法人全体のブランドやスタッフの士気低下にも広がりました。「また院長が変わるのか」「経営陣は現場を理解していない」といった不満がスタッフの間に蓄積し、法人全体の離職率まで上がってしまいました。
この事例から得られる教訓は、契約段階で曖昧なまま任せると、短期間での退職や経営トラブルを招き、法人全体に深刻な影響を及ぼすということです。
チェックリスト
- 報酬制度の明確化
成果と連動する報酬体系を契約段階で明示しているか。 - 評価基準の透明性
患者数・診療報酬額・満足度など、評価指標が数値で示されているか。 - 管理医師の経歴と定着力
短期離職や転々とした経歴がないかを確認しているか。 - 法人方針との一致度
管理医師の診療スタイルや価値観が法人の理念と一致しているか。 - マネジメント力の有無
スタッフ育成や組織運営に関心と実績があるか。 - 患者対応への意識
診療の質だけでなく、サービスや接遇を重視しているか。 - 契約内容に対する納得感
曖昧なままスタートせず、双方が条件に納得した状態で合意できているか。
成功事例と失敗事例を比較すると、分院管理医師に経営への当事者意識をどう持たせるかが分院経営の成否を分けるポイントであることが明確です。法人は契約の段階でインセンティブや評価基準を透明化し、管理医師と「同じ目線」で経営を進められる環境を整えることが不可欠。
分院の管理医師は、単なる診療責任者にとどまらず、法人戦略を現場で実現するキーパーソンです。本院と同様に患者からの信頼を得て、地域に根ざした医療を提供しながら、法人全体の成長を後押しする存在であるため、その選定や契約内容は分院経営の成否を大きく左右します。まず、候補者選定の段階では、経歴の精査が欠かせません。短期離職が続いていないか、分院管理の経験がどのような成果をもたらしたのか、広域勤務や複数兼務の背景に無理がなかったかなど、過去の職歴から定着力や責任感を見極めることが重要です。履歴書の表面的な情報だけで判断せず、面談を通じて「なぜその経歴になったのか」を掘り下げることで、採用後のミスマッチを防ぐことができます。
次に、契約段階では、報酬制度とインセンティブ設計の明確化が必須です。固定給だけでは管理医師が経営的意欲を持ちにくいため、患者数や診療報酬額、患者満足度など、具体的な指標をもとにした報酬増加制度を導入する必要があります。さらに、分院単位の収益に連動した賞与や特別手当を設ければ、管理医師は「分院の成果が自らの評価につながる」と感じ、主体的に集患やサービス改善に取り組むようになります。このような仕組みを取り入れることで、管理医師は単なる「雇われ院長」から、経営パートナーとしての役割を果たすようになります。患者対応の質を高めることやスタッフ育成に注力する姿勢が自然と生まれ、法人の理念を現場で体現する存在へと成長していきます。逆に、報酬制度や役割分担が曖昧なままでは、管理医師が経営に対する当事者意識を持てず、早期離職や分院の赤字化、さらには法人全体のブランド低下につながるリスクが高まります。
最終的に、分院経営の成功には、法人と管理医師の間に強固な信頼関係を築けるかどうかが決定的な要素となります。そのためには、採用前の精査、契約時の明確な合意、開業後の継続的な対話と評価が三位一体となって機能することが求められます。管理医師が経営者の想いを理解し、自らの努力が正当に評価されると実感できれば、分院は安定した成長を遂げ、法人全体の発展に貢献するでしょう。分院開業を検討する法人にとって、管理医師の選定と契約は単なる人事の問題ではなく、長期的な経営戦略の根幹に関わる意思決定です。適切な人材と制度設計を組み合わせることで、持続可能で競争力のある医療法人経営を実現することが可能となります。
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