2025/12/19
感染症対策とデザイン性を両立するクリニックの最新動向
はじめに
新型コロナウイルスの流行以降、医療機関における感染症対策は社会的な必須要件となりました。
待合室の混雑や換気の不足、接触による感染リスク等、従来から指摘されていた課題が一気に表面化してきました。
これを受けてクリニックの新築や移転、改修の場面では「いかに安全に診療を行えるか」が最優先事項とされています。
しかし、その一方で課題もあります。
感染症対策を重視しすぎると、白一色の無機質な空間や、緊張感を与えるレイアウトになりがちです。
医療は患者にとって安心と癒しの場でもあるべきなのに、殺風景で冷たい空間では「通うのがつらい場所」になりかねません。
そこで近年注目されているのが、感染症対策とデザイン性の両立です。
感染症対策の基本要件
まずは、クリニックに求められる感染症対策の基本を整理してみましょう。
●換気と空気清浄
全熱交換器やHEPAフィルターを用いた換気システムの導入が広がっています。
二酸化炭素濃度をセンサーでモニタリングし、常に空気環境を「見える化」する試みも一般化しつつあります。
●動線分離
発熱外来や感染疑い患者様の動線を、通常の診療患者と完全に分ける設計が推奨されています。
建物の入口から診察室に至るまでのルートを二重化する事例も増えています。
●非接触化
自動ドア、セルフチェックイン端末、オンライン予約・決済などを組み合わせ、受付や会計での接触を減らす仕組みが求められています。
●清掃性の高い素材
抗菌素材や、アルコール・次亜塩素酸で拭き取りやすい壁材・床材の採用が進んでいます。
これらは安全を守るうえで不可欠ですが、それだけでは患者体験が損なわれてしまうこともあります。
デザイン性との両立の工夫
ここで重要になるのが、空間の「心地よさ」です。
クリニックは患者様が不安を抱えて訪れる場所だからこそ、デザインの工夫が大切になります。
●自然素材の活用
木材や石材をアクセントに取り入れることで、無機質な医療空間に温かみを加えられます。
特に待合室に木の質感を取り入れると「癒しの場」としての印象が強まります。
●光と色彩の設計
白色蛍光灯ではなく、温かみのあるLED照明や間接照明を使うことで、リラックスできる環境が生まれます。
壁や家具の色も淡いグリーンやベージュを選ぶと安心感を与えます。
●アートの導入
小児科での壁面イラストや、内科での落ち着いた絵画展示など、視覚的なやすらぎが不安を軽減します。
アートは感染対策とは直接関係しませんが、患者様満足度を大きく左右します。
●家具とレイアウト
ソーシャルディスタンスを意識した配置でありながら、孤立感を与えない工夫が必要です。
背の低いパーティションや観葉植物を用いると、自然な仕切りを実現できます。
<最新動向と事例>
実際の事例をいくつか見てみましょう。
●北欧のクリニック
木材を多用した「ヒュッゲ」デザインを取り入れつつ、高性能換気システムを組み合わせる事例が増えています。
患者様はカフェに来たような感覚で安心して過ごせる一方、感染症リスクはしっかりと管理されています。
●国内の小児科
動線管理を「遊びながらできる」仕組みにした事例があります。
床に描かれた足跡や壁のイラストが、自然と子どもたちを正しいルートに誘導します。
感染対策を意識させすぎず、楽しさの中で実現できるのです。
●カフェ風待合室を採用する内科
感染症対策のため受付は非接触型カウンターですが、空間全体は落ち着いた色調と柔らかい照明で構成されています。
患者様は緊張せずに待ち時間を過ごせるよう工夫されています。
<今後の展望>
今後のクリニック設計では、さらに以下の傾向が強まると予想されます。
●ウェルネス志向の空間
診療所というよりも「心と体を整える場」としてのデザインが進むでしょう。
●ICTとの融合
オンライン診療やアプリ予約といったシステムが、建物の設計や動線デザインに組み込まれるようになります。
●サステナビリティとの両立
感染対策素材や設備にも環境配慮型のものを選ぶ動きが加速します。
持続可能な社会に向けて、医療空間も「エコと安全」の両立が求められるのです。
<まとめ>
感染症対策とデザイン性は、必ずしも相反するものではありません。
むしろ両立させることで「安全性」と「快適性」が同時に実現し、患者様にとって安心して通えるクリニックになります。
医療の価値が診療行為そのものに加えて「体験価値」にも広がっている今、空間づくりの工夫は欠かせません。
これからのクリニックに求められるのは、感染症から守る堅牢な仕組みと、患者様を迎える優しいデザイン。
その両立こそが、次世代の医療空間を形づくる鍵となるのではないでしょうか。
