2025/05/22
“集患”は地上戦と空中戦
クリニックの集患戦略においては、「地上戦」と「空中戦」という2つの戦術をバランスよく組み合わせることが重要です。地上戦とは、地域密着型のリアルな接点を活用した集患施策を指し、空中戦はオンラインやデジタルメディアを活用した認知拡大・ブランディング戦略を意味します。いずれも一方に偏るのではなく、診療科の特性と地域特性に応じて戦略的に融合することで、持続的な患者獲得と経営の安定化が実現します。たとえば内科や小児科など、生活動線に密着した診療科では、地上戦の強化が基本となります。近隣住民向けのチラシ配布、地域イベントや健康講座の開催、医療連携先との関係構築など、地域に「存在を知ってもらう」「信頼を得る」ことが初診導線の起点になります。特に高齢者が多い地域では、デジタル広告よりも掲示板や新聞折込の方が効果を発揮するケースもあります。
一方、形成外科や美容皮膚科、自由診療中心の歯科など、専門性が高く、広域から集客を目指す診療科では、空中戦の重要性が増します。SEO対策を施したホームページや、Googleビジネスプロフィールの最適化、InstagramやYouTubeなどを活用した情報発信と視覚的ブランディングにより、潜在患者へのリーチを広げます。さらに、検索連動型広告やSNS広告を通じて、ニーズを持つ層へピンポイントで訴求する戦術も有効です。重要なのは、地上戦が「信頼構築」、空中戦が「認知獲得」という役割を担っている点です。これらを分断して行うのではなく、一貫したコンセプトとメッセージで統合し、地域に根ざしつつ広域からも選ばれるクリニックを目指すべきです。診療科の特性、地域性、患者層に応じて、2つの戦術を最適化・融合させることが、今後の医療マーケティングにおける鍵となります。
1. 地上戦―地域密着型のアプローチ
クリニックの集患戦略において「地上戦」とは、地域に根ざし、住民と直接接点を持つことにより信頼を構築し、継続的な受診行動を促す戦術を指します。広告媒体に頼らず、日常生活圏の中で自然に選ばれる存在となるためには、診療科ごとの特徴を活かした“地に足の着いた”取り組みが求められます。
小児科:子育て世代との関係づくりが鍵
小児科の地上戦では、保育園・幼稚園との連携が特に重要です。地域の保育施設に定期的に足を運び、感染症や予防接種に関するリーフレットを配布することで、保護者と園職員の両方に安心感を提供できます。さらに、院内や地域センターで育児相談セミナーや子育て講座を開催すれば、医師としての信頼性が高まり、初診導線にも直結します。加えて、予防接種スケジュールの個別案内やリマインドは、定期的な来院を促す有効な仕組みとなります。
皮膚科:季節と生活習慣に寄り添う情報発信
皮膚科は季節性が強く、乾燥・汗疹・花粉・紫外線対策など、症状に応じた啓蒙活動が有効です。春先には花粉皮膚炎やアトピー性皮膚炎、夏には日焼けや虫刺され、秋冬には乾燥や手荒れなど、タイムリーなテーマでの無料相談会を実施することで、潜在患者層への接点を生み出します。また、地域のフィットネスクラブや福祉施設と連携し、スキンケア指導やセルフケア講習会を提供することも、口コミや紹介の拡大に寄与します。
耳鼻咽喉科:地域イベントを活かした露出強化
耳鼻咽喉科は季節変動に強く依存する診療科であるため、シーズン前の先手対応が集患の鍵です。例えば、花粉症や風邪の流行期に先駆けた症状チェックキャンペーンやスクリーニングを地域で展開することで、「早めの受診」の動機づけが可能です。また、高齢者施設との連携による耳掃除・聴力チェックの訪問サービスや、地域の夏祭り・マルシェへの健康ブース出展など、目に見える形での関与を増やすことが、地域に溶け込む最大の武器となります。地上戦の本質は、「誰に診てもらうか」を地域住民に意識させ、安心して選ばれる存在になることです。診療科の専門性を起点に、地域の生活や行動と結びついた継続的な接点づくりが、初診からリピートへとつながる最短ルートとなります。単なる施策ではなく、“信頼資本”の積み上げとしての地上戦こそが、ローカルに強いクリニック経営の根幹を支えるのです。
- 小児科:保育園との連携、育児セミナー、予防接種案内
- 皮膚科:季節性症状に応じた相談会、地域施設での啓蒙活動
- 耳鼻咽喉科:シーズン前の症状チェック、高齢者施設との連携、地域イベント参加
2. 空中戦―WEB・SNSでの情報発信と集患
「空中戦」とは、WEBやSNSなどデジタル上のタッチポイントを活用して、来院前の患者との信頼関係を築く戦略を指します。患者は今や受診前に検索・比較し、「このクリニックなら安心できそう」と感じてから予約・来院に至るのが一般的です。つまり、実際の診療が始まる前に、すでに“第一印象”はWEB上で形成されているのです。診療科ごとの特性を踏まえ、的確なメディアと発信内容を使い分けることで、潜在患者の認知・信頼・行動を一貫して導くことが可能になります。
小児科:親世代との信頼構築が最優先
小児科の空中戦では、SNS・ブログ・LINE公式アカウントなどを活用した継続的な発信が効果的です。保護者はわが子の体調に敏感であり、「この医院は情報が正確で、対応も柔らかそう」という印象が、初診の決め手になります。たとえば、予防接種スケジュールの解説、発熱時の家庭での対処法、離乳食の進め方などをブログやInstagramで定期的に発信することで、フォロワーとの接触回数を増やし、予約への心理的ハードルを下げることができます。また、オンライン診療・Web予約の導線をわかりやすく設計することも、デジタルに慣れた親世代には大きなメリットです。
皮膚科:ビジュアルと専門性で惹きつける
皮膚科は見た目に訴求力がある診療科であるため、InstagramやYouTubeといった視覚重視型SNSとの相性が非常に高いです。たとえば、アトピー・ニキビ・イボ・シミといった症例を、ビフォーアフター画像付きで丁寧に紹介することで、患者の不安を安心に変える効果があります。また、院長やスタッフが登場し、「正しいスキンケア方法」「市販薬と処方薬の違い」といった内容を動画で解説することで、医師と患者の距離感を縮め、医療への信頼感や親近感を醸成できます。自由診療を提供するクリニックであれば、施術の流れや料金を事前にわかりやすく伝えることで、問い合わせ数や来院率が飛躍的に向上します。
耳鼻咽喉科:検索流入を意識したコンテンツ作成
耳鼻咽喉科では、「花粉症」「耳鳴り」「喉の違和感」など、検索ニーズが明確な症状が多いのが特徴です。そのため、Q&A形式のブログや動画で患者の疑問に端的に答える形式が有効です。たとえば、「花粉症の薬はいつから飲むべき?」「耳鳴りの原因とセルフケア」「喉が痛いときの市販薬の選び方」など、具体的な悩みに即したタイトルでコンテンツを発信すれば、検索エンジン経由のアクセスが伸び、新規患者との接点が自然に生まれます。YouTubeでの簡易的なセルフケア動画や、耳掃除・鼻うがいのやり方の解説など、医師の顔が見えるコンテンツは視聴者の安心感を高め、診療所の「空気感」を伝える効果もあります。空中戦の成否は、発信の継続性・媒体の選定・ターゲット理解にかかっています。診療科の特性に即したコンテンツ戦略を構築し、「このクリニックに相談したい」と思わせる接点を日常の中に自然に埋め込むことで、地域にとどまらない広域からの集患が可能になります。空中戦は、現代の医療経営における“第二の受付窓口”とも言える存在です。
3. 地上戦と空中戦のシームレスな統合
現代の医療経営において、集患は単発的な「宣伝」や「イベント」ではなく、患者との継続的な関係性の設計という視点が必要です。そのためには、「地上戦(リアルな接点による地域密着)」と「空中戦(WEB・SNSを活用した情報発信)」を戦術として分けるのではなく、戦略として統合することが重要になります。
オンラインで興味を引き、オフラインで信頼に変える
たとえば、WEBサイトやSNSで内覧会の告知を行い、事前予約フォームを通じて来院の動線を設計するのは、まさに空中戦と地上戦の融合例です。特に、GoogleビジネスプロフィールやInstagramでの「院内の雰囲気」「医師やスタッフの人柄」が伝われば、地域住民が初めて扉を開く心理的ハードルは大きく下がります。また、イベント当日にアンケートやLINE登録を促すことで、来院後のフォローアップをデジタルで継続する仕組みも構築できます。つまり、空中戦はあくまで“きっかけ作り”、地上戦は“信頼の積み重ね”という役割を持ち、双方向で補完し合う構造が望ましいのです。
予約導線の最適化とリマインド戦略
オンライン予約フォームを導入しているクリニックは年々増加していますが、「導入して終わり」では集患にはつながりません。重要なのは、予約ページまでスムーズに辿り着ける設計(UI/UX)と、来院前・来院後の接点設計です。たとえば、予約完了時に自動でリマインダーメールやSMSを送信し、キャンセル率を抑える仕組みはもちろん、来院後数日してから「いかがでしたか?」というフォローメッセージを送ることで再診の動機づけにもなります。これもまた、空中戦によって始まり、地上戦へと接続される「一連の患者体験の設計」といえます。
オンラインの声を、リアルの運営に活かす
GoogleやSNSで寄せられる口コミや評価は、空中戦の重要な成果物のひとつですが、それを院内オペレーションの改善に活かしてこそ価値が生まれます。「受付の対応が親切だった」「待合室が快適だった」といった声は、スタッフのモチベーション向上にもつながりますし、逆に「説明がわかりにくかった」「待ち時間が長かった」といった指摘は、院内フロー改善のヒントになります。つまり、WEB上の評価はクリニック外のマーケティング資源であると同時に、院内のマネジメントツールにもなりうるのです。空中戦で得られたフィードバックを、地上戦に反映するこの循環が、組織としての柔軟性と進化を促します。
“オンラインとオフラインの設計”を意図的に行う
集患というと、広告やSEO対策に目が向きがちですが、真に大切なのは**「一度関わった患者との関係性をいかに育て続けるか」です。そのためには、あらかじめオンラインとオフラインの接点を意図的に設計する**ことが不可欠です。たとえば、ブログで発信した季節性疾患の注意喚起に対して、院内で実施する相談会の情報をリンクさせる。SNSでフォローしている患者に、予防接種の時期が近づいたらDMでリマインドする。こうした“デジタルとリアルの会話”を設計することが、信頼されるクリニックへの進化につながっていきます。地上戦と空中戦は、どちらが優れているというものではなく、それぞれの強みを活かしながら、患者の時間軸と感情に寄り添う設計が必要です。偶発的な集患ではなく、継続的な来院と信頼の蓄積を目指すなら、こうした統合戦略こそが真の差別化になります。地に足をつけながら、しっかりと風を読む――そんな柔軟で誠実なクリニック運営が、選ばれる理由になっていくのではないでしょうか。
4. 戦略マトリクス
クリニックの集患を持続的かつ効果的に行うには、地上戦(オフライン)と空中戦(オンライン)を軸に、目的別に戦略を整理・設計することが重要です。この「戦略マトリクス」は、認知向上・信頼構築・集患導線という3つのフェーズに沿って、どのような施策を組み合わせるべきかを俯瞰するための指針となります。
■ 認知向上:まず“知ってもらう”ことから
【地上戦】
地域イベントや健康講演会への参加、商圏内でのチラシ配布など、直接的な接触によって地域住民への存在感を浸透させる活動です。顔が見えるコミュニケーションが特徴で、特に高齢者層やアナログ世代に有効です。
【空中戦】
SNSによる定期的な情報発信、SEO対策を施したホームページ運用、Google広告やリスティング広告といった検索行動を前提とした接点設計が中心となります。若年層や子育て世代など、スマホ中心の生活者との相性が良い領域です。
■ 信頼構築:選ばれる存在になるために
【地上戦】
保育園・学校・高齢者施設などとの継続的な連携は、“診てもらうならあの先生”という地域内での信頼の蓄積を生みます。また、内覧会や無料相談会など、地域に開かれた活動も大きな信頼形成につながります。
【空中戦】
症例紹介やビフォーアフター、ドクターコラムや専門知識の記事発信を通じて、医療的専門性と人間性の両面をデジタル上で表現します。また、Google口コミへの返信やSNSでの丁寧なコメント対応なども、信頼を積み上げる重要な接点です。
■ 集患導線:患者が行動するための仕組み
【地上戦】
口コミや家族・知人からの紹介、内覧会や地域イベントからの来院誘導といった、「安心できる情報源」からの来院動機づけが主になります。ここでは、スタッフの接遇や空間づくりも大きく関与します。
【空中戦】
オンライン予約システム、LINE通知、リマインダーメールなど、予約や再来をスムーズに誘導する機能面の整備が鍵です。利便性を高めることで、「行ってみようかな」という関心を「予約する」という行動に転換させます。
このように、地上戦と空中戦をマトリクスで俯瞰することにより、診療フェーズごとにどの接点が有効かを可視化でき、戦略的な優先順位の整理にもつながります。一つひとつの施策が単発で終わらないよう、“つながり”のある導線設計を意識することが、持続可能なクリニック経営の基盤となるのです。
| 地上戦(オフライン) | 空中戦(オンライン) | |
|---|---|---|
| 認知向上 | 地域イベント、講演会、チラシ配布 | SNS発信、SEO対策、Web広告 |
| 信頼構築 | 保育園・学校・施設との連携 | 症例紹介、レビュー対応、専門記事 |
| 集患導線 | 口コミ、紹介、内覧会 | 予約システム、LINE通知、メール配信 |
5. 集患フロー図
集患を成功させるためには、患者の行動や心理の流れに即した**「接点の設計」が不可欠です。単に広告やWEBサイトを出すだけでは不十分で、患者が認知から来院、再来に至るまでの動線を一貫して導く“集患フロー”の可視化と運用**が求められます。まず、スタート地点は認知フェーズです。ここでは、WEB広告、SNS、Googleビジネスプロフィール、地域掲示板やチラシといった空中戦・地上戦の広報活動が有効です。次に、興味を持った患者がWEBサイトを訪問し、診療内容・院内の雰囲気・医師の人柄を確認し、「ここなら安心できそう」と思える情報設計が鍵になります。その後、患者は予約・来院フェーズへと進みます。ここでは予約フォームの導線や診療時間の明確化、初診でも来やすい雰囲気づくりが重要です。来院後は、受付対応・診察・会計・説明といったすべての接点が“体験”として印象に残ります。最後に、再来・定着フェーズでは、リマインドメールやLINE配信、アンケートによるフォローアップなどを通じて、継続的な関係構築を図ります。このように、患者視点で設計された集患フロー図をもとに各フェーズの最適化を進めることが、安定した診療経営に直結します。
患者接点を意識した集患のフロー
- ① SNS/ブログ/広告で認知 →
- ② 興味関心を高める情報発信(例:健康情報) →
- ③ Webサイトにアクセス →
- ④ オンライン予約・電話問い合わせ →
- ⑤ 来院 →
- ⑥ 対応満足 →
- ⑦ リピート & 口コミ投稿 →
- ⑧ さらなる認知拡大へ(①へ循環)
診療科、近隣競合に合わせた集患戦略が効果的
小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科といった専門科における集患戦略は、単なる集客ではなく、患者との信頼関係をどのように築き、維持し続けるかという視点が不可欠です。その実現のためには、地上戦(地域密着型アプローチ)と空中戦(情報発信型アプローチ)の両輪をバランスよく回すことが求められます。たとえば、地上戦では、地域の保育園・学校・福祉施設・薬局との連携、健康相談会の開催、ポスティングやチラシ配布といった直接的な接点づくりが有効です。これにより、地域住民にとって“顔の見える医療機関”として信頼が醸成され、紹介や口コミといった自発的な集患の流れが生まれる基盤となります。
一方、空中戦では、クリニックの専門性や診療姿勢をオンライン上でしっかりと伝えることがポイントです。SEO対策を施したホームページ、InstagramやYouTubeによる症例紹介、ブログによる情報発信などを通じて、診療前の段階で患者に安心感と期待感を与えることができます。これは特に、初診患者や遠方から来院する患者に対して大きな効果を発揮します。重要なのは、地上戦と空中戦を単独で展開するのではなく、戦略的に統合することです。たとえば、WEBサイトで告知した内覧会をLINEやInstagramで拡散し、当日はリアルイベントでスタッフとの関係性を築く。イベント後にはアンケート結果を元にした情報発信や、リマインド機能を用いた再来促進を図る。こうした設計された患者体験の循環が、継続的な来院と信頼を生み出します。
最終的に目指すべきは、「選ばれるクリニック」から「頼られるクリニック」への進化です。そのためには、マーケティングの理論と現場の実務を結びつけた、再現性のある戦略設計が欠かせません。時代の変化と患者のニーズに柔軟に対応しながら、“つながり”を資産化していく経営こそが、これからの地域医療に求められる姿だと言えるでしょう。
この記事を監修した人
浅見 允文
16年以上にわたり人事・組織運営支援の分野で実務経験を積み、年間110件を超える医療法人および個人開業医からの支援要請を受ける、株式会社ジムチョーの創業者。事務長代行・事務代行といった実務支援に加え、診療所経営における人的資源管理、業務設計、運営体制の最適化に関する高度な知見を有する。中でも、管理職層・事務長層を対象とした育成・研修においては高い評価を得ており、組織基盤強化と持続的発展に資する中核人材の育成に継続的に取り組んでいる。
