2025/09/30
承継プロセスの流れと注意点4士業が伴走する「8つの関門」
承継プロセスの流れと注意点――4士業が伴走する「8つの関門」
第三者承継を成功に導くには、「税務」「労務」「法務」「許認可」という4つの専門領域を、継ぎ目なく束ねて設計することが不可欠です。いずれか一つでも欠けると、承継は途中で止まり、あるいは承継後に大きなトラブルを抱えることになります。
以下では、税理士・社会保険労務士・弁護士・行政書士の4士業がそれぞれの専門性を持ち寄りながら伴走する「8つのステップ」に沿って、第三者承継の実務プロセスと注意点を整理します。
一般的な第三者承継の8ステップ
- 1. 現状分析・可視化(クリニックの棚卸し)
- 2. 承継方針の整理
- 3. 買い手候補の選定・交渉
- 4. 基本合意・デューデリジェンス
- 5. 最終契約締結・引継ぎスケジュール策定
- 6. スタッフ・患者・地域への説明・広報
- 7. 実際の引継ぎ(診療・運営・経理等)
- 8. 引継ぎ後のフォローアップ
1. 現状分析・可視化――「譲れる状態」を数字と書類で証明する
承継の第一歩は、クリニックの現状を客観的に「見える化」することです。感覚や印象ではなく、第三者が見ても判断できる状態に整理することが求められます。
税理士は、過去3〜5年分の決算書や資金繰り表を並べ、リース残債、未払消費税、未収金などの簿外債務を洗い出します。社会保険労務士は、雇用契約書・就業規則・賃金台帳・36協定を点検し、未払い残業や社会保険加入漏れの有無を確認します。
弁護士は、外部委託契約や賃貸借契約の内容、診療報酬請求の適法性、過去のクレームや訴訟リスクを精査します。行政書士は、診療所開設届、医療法人定款、各種許認可書類の原本を整理します。
4士業が同じテーブルで情報を突き合わせることで、買い手に提示できる「安心材料」が整い、承継の土台が固まります。
2. 承継方針の整理――税務・労務・法務を統合したシナリオ設計
次に行うのは、「何を」「どの形で」譲るのかという承継方針の整理です。ここでの判断が、税負担、手続き量、承継後の安定性を大きく左右します。税理士は、事業譲渡か出資持分譲渡かといったスキームごとの納税コストや、院長の退職金設計を試算します。社会保険労務士は、承継後に院長が残る場合の再雇用契約や嘱託医契約を設計し、社会保険や雇用保険の切替時期をシミュレーションします。
弁護士は、表明保証や競業避止など、リスク分担条項の方向性を整理します。行政書士は、保健所・厚生局への届出スケジュールをガントチャート化し、行政手続きの全体像を可視化します。4士業のスケジュールが噛み合っていないと、承継は途中で止まります。この段階での統合設計が極めて重要です。
3. 買い手候補の選定・交渉――「価格」よりも「続く運営」を見る
買い手選びは、高値を付ける相手を探す作業ではありません。承継後に医療と経営が継続できるかどうかが最優先です。
税理士は、買い手候補の財務資料を確認し、資金調達力や融資実行可能性を検証します。社会保険労務士は、買い手側の人事制度や勤務医確保方針を確認し、スタッフ処遇の統合イメージを描きます。
弁護士は、秘密保持契約や独占交渉期間を設定し、交渉の主導権を確保します。行政書士は、買い手側の許認可状況を確認し、法的に問題がないかを事前にチェックします。
4士業が多面的に適合性を確認することで、「価格は高いが続かない承継」を防ぐことができます。
4. 基本合意・デューデリジェンス――リスクを数字と条文に落とす
基本合意書を締結後、デューデリジェンスに進みます。通常は買い手側が行いますが、売り手側でも事前に整理しておくことで、交渉を有利に進めることができます。
税理士は、医療機器や在庫、のれんを含めた資産査定を行い、価格調整の根拠を整理します。社会保険労務士は、勤怠データと賃金台帳を突合し、未払い残業リスクを数値化します。
弁護士は、デューデリ結果を踏まえて補償条項や責任範囲を精緻化します。行政書士は、許認可引継ぎ書類を洗い出し、行政対応に備えます。
この段階で「見落としゼロ」を目指すことが、成約率を高める鍵となります。
5. 最終契約締結・引継ぎスケジュール策定
譲渡日を確定し、最終契約を締結します。事業譲渡の場合は、各士業による手続きが一斉に発生します。
税理士は税務精算、社会保険労務士は資格取得・喪失手続き、弁護士は契約変更確認、行政書士は開設者変更届や指定申請を進めます。1枚のガントチャートを共有することが、期限漏れ防止の要です。
6. スタッフ・患者・地域への説明・広報
情報開示は、段階的かつ丁寧に行う必要があります。税理士は退職金等の資金繰りを確認し、社会保険労務士は労働条件変更通知を準備します。
弁護士は説明文書の表現をチェックし、行政書士は院内掲示や広告表記が医療広告ガイドラインに適合しているかを確認します。
7. 実際の引継ぎ――診療を止めないための即応体制
クロージング当日は、診療と経理を止めないことが最優先です。4士業が即応できる体制を敷くことで、名義だけを円滑に切り替えます。
8. 引継ぎ後のフォローアップ――半年から1年が勝負
承継は引継ぎで終わりではありません。税務申告、労務モニタリング、契約違反チェック、許認可の継続対応を行い、想定外リスクを早期に封じ込めます。
4士業が半年から1年伴走することで、第三者承継は「単なる売買」から「地域医療をつなぐ経営判断」へと昇華します。
