2026/03/19
医療法第54条について
よく医療法人が事業運営を行うにあたって
その非営利性について行政から指摘を受けることがあります。
この非営利性について、実は医療法にはそれを直接的に明示する規定はありません。
では、根拠規定がないのかと言うとそうではなく
行政は、医療法第54条(以下「54条」と言います。)を根拠に医療法人の非営利性に言及することが多いように見受けられます。
※他にも根拠規定はありますが、今回は54条を中心に説明をします。
第54条 医療法人は、剰余金の配当をしてはならない
こちらの規定は、「剰余金の配当を禁止する」としか条文上は読めないのですが
規定の趣旨・目的からその適用範囲が広範囲になっているのが実務の現状です。
まず、54条は、医療法人が事業運営によって得た利益を、社員(出資者)や役員等に対して分配・配当することを禁止すると共に、医療施設の整備や医療機器の購入、スタッフ等の従事者に係る待遇改善など、本来の医療業務の充実のために再投資(又は積立金として貯蓄)することを趣旨・目的にすると一般的に解釈されています。
54条をこのように解釈した場合、次のような行為は禁止・制限されると考えられています。
<54条を根拠に制限される行為の代表例>
①特定の役員に対する高額な貸付
②医療法人が所有する不動産を社宅等の名義で特定の役員に対して賃借する行為
③役員が所有する不動産を高額な賃借料を支払って賃借する行為
④役員個人の債務の保証
さて、この①~④の行為は別の側面から見た場合、役員と医療法人の利益が外形的には衝突するケースに該当するため、所謂「利益相反取引」に該当することになります。
そうなると、54条違反の行為も理事会の承認を経れば有効な取引になるのではないかという疑問が生じるわけです(医療法第46条の6の4、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第84条及び第92条参照)。
結論から先にお伝えするのであれば、有効にはならないと解するのが妥当というのが私の考え方です。
その理由としては、主に次の2つが挙げられます。
①54条は、強行規定であるため当該規定に反する行為はすべて無効になる(絶対的無効)。
②理事会の承認を得れば常に有効になるのであれば、54条は有名無実化してしまい、54条の制度趣旨が没却される。
以上の点から、54条違反の取引は、たとえ理事会の承認を経ても有効にならないというのが私の考えです。
さて、仮に私の立場にたったとして、もっとも実務上問題になるケースは、銀行の融資が絡む取引だと思われます。
すなわち、銀行が医療法人の理事長Aに対して何らかの融資を行う際に、医療法人の所有する不動産に対して担保を付するケースにおいて(いわゆる「物上保証」のケース)、54条を根拠に銀行の担保設定が無効になるかです。
このケースも、理事長Aが締結した金銭消費貸借契約に基づく債務を医療法人が(物上)保証するため、当然に利益相反取引になると考えます。
※Aを契約の当事者とする金銭消費貸借契約と、医療法人を契約当事者とする物上保証契約のいずれも銀行と契約を締結する際に署名捺印等をするのはAであるため、利益相反取引になります。
ては、理事会の決議を経れば物上保証契約が有効になるのでしょうか。
私の立場からすれば、それは否定されます。
上述のとおり、54条違反は絶対的無効であり、かつ、それを理事会の承認を得て有効になるのであれば、54条は実質有名無実化するからです。
この点から、医療法が適用される利益相反取引においては、理事会の承認を得て有効になる利益相反取引のケースとは、次のようなケースが想定されます。
<54条には該当しないが利益相反取引に該当する事例>
①福利厚生規程に基づく適正価格の役員貸付
②適正価格の不動産賃貸借契約に基づく賃借料
③福利厚生規程に基づく適正価格の家賃補助
これまでの検討からまとめると、医療法人の非営利性(54条の趣旨・目的)の観点からは、社員や役員等に対する実質的な利益配当と評価されない利益相反取引に限り、理事会の承認を得ることによって有効な取引になると考えるのが妥当ということになります。
最後に、理事長Aという一役員の個人的な債務が返済不能になった場合に(医療法人の事業とまったく関係ない債務の返済が不能になった場合に。)、理事長Aの債務弁済の原資に充てるために医療法人の財産(不動産)を強制的に没収できる物上保証契約は、まさに役員に対する実質的な利益の分配・配当ということになり、54条違反になるというわけです。
この記事を監修した人
長谷川 真也
医療分野を専門とする行政書士として、医療法人の設立、移転、承継、組織再編といった複雑かつ多岐にわたる法務・行政手続に精通。豊富な現場知識と緻密な制度理解を活かし、単なる手続代理にとどまらず、戦略的視点を取り入れた法務コンサルティングを提供している。診療科や規模を問わず幅広い医療機関の支援実績を有し、医師や医療従事者との信頼関係を礎に、医療経営の健全化と発展に貢献している。
