2025/12/24
30年ぶりの3%超改定は、経営を見直すための「合図」
政府は2025年12月19日、2026年度診療報酬改定について、医師の技術料や人件費にあたる「本体」部分を3.09%引き上げる方針を固めました。
診療報酬の本体が3%台となるのは、3.4%だった1996年度以来、実に約30年ぶりです。
直近の2024年度改定が0.88%にとどまっていたことを踏まえると、今回の改定がいかに異例かが分かります。
ただし、この引き上げは景気回復や医療業界への“ご褒美”ではありません。
背景にあるのは、物価高・人件費高騰・人手不足による医療機関の経営悪化です。
政府・与党は、国民負担増という難しい判断を承知の上で、「この水準の改定がなければ医療提供体制が持たない」と結論づけました。
今回の改定は、医療機関を“立て直すための最低限の調整”と見るのが現実的でしょう。
3%超は「攻め」ではなく「守り」の引き上げ
院長先生方が日々感じている現場の感覚こそ、今回の改定の理由です。
- スタッフの人件費が上がり続けている
- 採用しても人が集まらない、定着しない
- 医療材料費、光熱費、外注費が軒並み上昇
- 患者数は大きく変わらないのに、利益が残らない
「忙しさは増しているのに、経営的な余裕はむしろ減っている」
こうした状況が、全国のクリニックで当たり前になりつつあります。
今回の3%超改定は、「経営を楽にするための引き上げ」ではなく、これ以上悪化させないための防衛策と捉えるべきです。
一般的な内科クリニックでの売上インパクト
では、この3%超が実際の売上にどの程度影響するのでしょうか。
一般的な内科クリニックを想定して試算してみます。
前提条件
- 外来中心の一般内科
- 1日外来患者数:60人
- 月22日診療
- 平均診療単価:6,000円
この場合、
- 年商:約9,500万円
ここに3%の引き上げが加わると、
- 年間増収:約285万円
「年間300万円弱の増収」という数字になります。
300万円は、意識しなければ消える金額
一見すると小さくない金額に見えますが、現場感覚ではどうでしょうか。
- スタッフ1人を月1万円昇給 → 年間約12万円
- スタッフ5人分 → 年間約60万円
さらに、
- 社会保険料の事業主負担増
- 最低賃金引き上げ
- 残業代の増加
- 光熱費・材料費の値上げ
これらを合算すれば、年間300万円は何もしなければ自然に消えていく金額です。
今回の改定で「経営が一気に楽になる」と考えるのは危険です。
実態は、「これまで削られてきた体力を、ようやく最低限戻す」程度に過ぎません。
国が本当に伝えたいメッセージ
今回の改定で国が示しているメッセージは、極めてシンプルです。
- 人手不足を前提とした経営に切り替えてほしい
- 院長一人に負担が集中する構造を見直してほしい
- 非効率な運営を放置しないでほしい
つまり、診療報酬の数字そのものより「経営の中身」が問われているのです。
これから内科クリニックは二極化していく
今後、内科クリニックは大きく二つに分かれていく可能性があります。
① 構造改善に使えるクリニック
- 業務を整理し、人でなくてよい仕事を減らす
- 院長が診療と意思決定に集中できる
- スタッフが無理なく働ける体制をつくる
こうしたクリニックでは、今回の約300万円が将来の安定につながる投資になります。
② コスト増の穴埋めで消えるクリニック
- 忙しさは変わらない
- 院長の負担も減らない
- なぜ苦しいのか分からない
この場合、「診療報酬は上がったはずなのに、何も変わらない」という感覚だけが残ります。
まとめ|30年ぶりの改定は「考え直す合図」
今回の診療報酬改定を、
- 「年間300万円増えた」と捉えるか
- 「この300万円をどう使わなければ先がない」と捉えるか
ここで、クリニックの未来は分かれます。
診療報酬という外部環境はいずれまた調整されます。
だからこそ今、
- 何を続けるのか
- 何をやめるのか
- どこに時間とお金を使うのか
を考えることが重要です。
30年ぶりの3%超改定は、
「今のやり方のままで、本当に大丈夫ですか」
と、内科クリニック経営に静かに問いかけている出来事だと言えるでしょう。
この記事を監修した人
浅見 允文
16年以上にわたり人事・組織運営支援の分野で実務経験を積み、年間110件を超える医療法人および個人開業医からの支援要請を受ける、株式会社ジムチョーの創業者。事務長代行・事務代行といった実務支援に加え、診療所経営における人的資源管理、業務設計、運営体制の最適化に関する高度な知見を有する。中でも、管理職層・事務長層を対象とした育成・研修においては高い評価を得ており、組織基盤強化と持続的発展に資する中核人材の育成に継続的に取り組んでいる。
