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クリニック承継開業とは

2025/05/22

クリニック承継開業とは

5つの視点からクリニック承継開業の要点を整理します。

1. クリニック承継開業の定義と特徴

クリニック承継開業とは、既存の医療機関が保有する資産(医療機器・施設)や患者基盤(カルテ・通院履歴)スタッフ(受付・看護師・事務等)、そして診療ノウハウや地域ブランドといった経営リソースを、事業譲渡契約やM&Aスキーム(株式譲渡・持分譲渡・営業譲渡)を通じて包括的に引き継ぐ形で行う開業形態です。これはいわゆる「ゼロからの新規開業」とは一線を画し、事業継続性・資源活用性・収益性の観点から合理的な開業手段として注目を集めています。

たとえば、新規開業の場合、土地取得・建物建築・設備投資・人材採用・広告宣伝・地域認知獲得など、多面的な初期投資が必要であり、平均して7,000万〜1.2億円の費用と、2〜3年の黒字化までの期間を要するケースが一般的です。一方、クリニック承継開業では、既に一定の診療実績や通院患者が存在し、スタッフの業務スキルも確立されているため、平均投資額は3,000万〜8,000万円前後に抑えられ黒字転換までの期間も1年以内であるケースが多いとされています(※医療M&A仲介大手の調査より)。近年、この「承継型開業」のニーズが急速に高まっている背景には、次のような要因があります。

  • 開業医の高齢化:2023年時点で、全国の開業医のうち60歳以上が約49.2%、70歳以上が約26.7%を占めており、後継者不在による「第三者承継」の必要性が顕在化しています(厚生労働省『医師・歯科医師・薬剤師調査』より)。
  • 親族内承継の困難化:かつては子弟による世代交代が一般的でしたが、近年は医学部進学率の低下や都市部への流出もあり、親族外承継(第三者承継)が全体の70%以上を占めるようになっています。
  • クリニックM&A市場の成熟化:M&A仲介会社や医療専門の士業による支援体制が整い、「可視化された価格」「デューデリジェンス体制」「売却側支援プラットフォーム」の普及が進んでおり、過去に比べて開業医同士のマッチングがスムーズに行える環境が整ってきています。

また、トレンドとして注目されているのが、「都市部から地方への逆流開業」や、「医療法人格ごと承継して即日開業が可能な法人M&Aの活用」です。特に、人口減少エリアにおける医師需給のギャップが拡大しており、地域包括ケア体制や在宅医療を支える拠点としての承継クリニックの社会的価値も高まっています。

今後は、医師個人だけでなく医療系企業や法人グループによる買収活発化し、「事業としての医療経営」の視点がより強く求められるようになるでしょう。承継開業は、単なる“医院の引き継ぎ”ではなく、“経営資源を戦略的に活用する開業モデル”として、今後の地域医療維持に欠かせない手段となりつつあります。

2. 新規開業との違いと経済合理性

新規でクリニックを開業する場合、立地選定からスタートし、建物の取得・改装、医療機器の購入、スタッフの採用・教育、広告宣伝やブランディングなど、あらゆる要素を“ゼロから”構築しなければなりません。これは自由度が高い反面、初期費用・リスク・時間的負荷が極めて大きい開業手段であることを意味します。一方、「クリニック承継開業」は、既に地域で運営されていたクリニックをそのまま引き継ぐため、経営インフラ(患者、スタッフ、診療体制、設備、地域認知など)を活用しながら、コストとリスクを大幅に抑えて開業できるという経済合理性を持っています。

■ 比較:新規開業 vs 承継開業(目安数値)

項目新規開業承継開業
初期費用総額7,000万円〜1.2億円3,000万円〜8,000万円
黒字化までの平均期間約2〜3年約6ヶ月〜1年
患者基盤ゼロから獲得既存の患者を承継
集患費用広告・PRなど高額初期広告不要のケースも多い
スタッフ採用・教育が必要経験スタッフを継続雇用可能
診療体制の確立開業後に試行錯誤成熟した体制を引き継げる

■ 経済合理性のポイント

初期投資の圧縮と資金回収スピード

新規開業では、建物取得・内装工事だけで数千万円、医療機器の購入で1,000万円以上、求人・広告費で数百万円と、目に見える支出だけでなく“軌道に乗るまでの空白期間”による機会損失も大きいのが現実です。対して、承継開業では営業権(のれん代)こそ必要になるものの、それに見合う形で既に収益構造が確立されているため、投資回収までのスピードが圧倒的に早く、キャッシュフローも安定しやすい特徴があります。

営業権(のれん代)で買える「信頼」と「継続性」

のれん代は無形資産ですが、既存の患者との信頼関係や地域医療への貢献実績、スタッフのスキル、紹介ネットワークといった「目に見えない資産価値」を金銭で買うものです。これは新規開業では獲得に数年かかる領域であり、金額以上の戦略的価値がある投資対象とも言えます。

医療法人格の活用

承継対象が「医療法人」である場合、法人格や社会保険診療報酬支払基金との契約関係を引き継ぐことで、開業までの法的・行政的手続きを大幅に短縮できます。さらに医療法人には節税メリットや複数院展開の柔軟性もあり、成長性のあるビジネスモデル構築がしやすくなるのも経済合理性のひとつです。

リスクの“事前可視化”が可能

承継開業では、M&Aの前段階で行う「デューデリジェンス(財務・法務・労務の精査)」により、開業前にリスク要因を洗い出すことができるのも大きな利点です。新規開業では「やってみなければ分からない」ことが多いのに対し、承継は“既知の状態”で始められるため、計画的で戦略的なスタートを切ることが可能です。

クリニック開業において「初期コスト」「収益化スピード」「安定性」を重視するのであれば、承継開業は明らかに経済合理性に優れた選択肢です。とくに今後、医療業界全体で医師の高齢化と後継者難が深刻化する中、「ゼロから作る」より「継いで進化させる」経営モデルが、より現実的で持続可能な方法として主流になっていくと考えられます。

3. 承継におけるM&Aと実務ポイント

~“医院を買う”は、もはや特別ではない時代へ~

近年、医療業界ではクリニックのM&A(買収・譲渡)が急増しています。かつてM&Aといえば大手病院や法人同士のスキームが主流でしたが、現在では個人開業医によるクリニック買収・承継開業が一般化しつつあり、「医院を建てる」から「医院を引き継ぐ」時代へと大きくシフトしています。とくに、医師の高齢化・後継者難を背景に、都市部・地方問わず年間2,000件超の医療M&A情報が流通しており(※2023年:日本医療M&Aセンター調べ)、今後もこの流れは加速する見込みです。本章では、クリニック承継におけるM&Aの基本的な仕組みと、実務上の重要ポイントについて解説します。

■ クリニックM&Aの基本スキーム

クリニックのM&Aは、主に以下2つの方法に分類されます。

【1】事業譲渡型

個人事業のクリニックや医療法人の一部事業を営業権や資産ベースで引き継ぐ方式

  • メリット :対象範囲を限定でき、買収後の自由度が高い
  • デメリット:許認可や保険医療機関の新規取得が必要

【2】法人承継型(持分あり・なし医療法人)

医療法人の法人格ごと株式や持分を譲渡し、組織全体を引き継ぐ形式

  • メリット :既存の保険請求権・施設基準・契約関係をそのまま承継できる
  • デメリット:社員総会、理事の変更、厚労省への届出など手続きが煩雑

■ 実務上の5つのポイント(成功するM&Aに必要な要素)

① 譲渡元との初期マッチング(希望条件・診療内容の整合性)

承継M&Aの成否は、「合うか合わないか」の段階でほぼ決まります。診療方針、働き方、地域との関係性、承継後の経営方針に違いがあると、スタッフの離職や患者の離脱が起きかねません。そのためには、M&A仲介業者による適切な事前マッチングと、院長同士の直接対話が欠かせません。

② デューデリジェンス(財務・法務・労務の精査)

買収を検討する際には、必ず行うべきが「デューデリジェンス」です。これは以下の領域に分けられます。

分野チェック項目例
財務DD月別損益、債務状況、キャッシュフロー、未収金
法務DD許認可、賃貸借契約、診療報酬返還リスク、法人定款
労務DD雇用契約、給与体系、残業状況、有給管理

たとえば、建物賃貸契約に更新不可条項がある勤務医が特定患者の大半を抱えているなど、買収後に経営へ影響を及ぼす情報を事前に洗い出すことで、想定外のリスクを防げます。

③ のれん代(営業権)の評価と価格交渉

のれん代(営業権)は、患者基盤・スタッフ・地域信頼・紹介ルートといった無形資産の価値を金銭で評価するものです。一般的には年間利益の1〜2倍程度が相場とされていますが、診療科や立地、患者数の安定度により幅があります。近年では、同一エリア・同科目での**医院売却事例データ(M&A成約事例)**をもとに相場が可視化されつつあり、専門家による価格査定や第三者評価の導入が進んでいます。

④ 許認可・契約関係の引き継ぎ

医療機関の承継では、厚生局・保健所への許認可手続きが必須です。とくに医療法人承継では以下の書類整理が必要です。

  • 開設者変更届、管理者変更届
  • 医療法人社員の入替手続き
  • 医師会・厚生局・保険者との契約引き継ぎ
  • 放射線施設・検査機器等の再登録

これらは行政の審査期間が1〜3ヶ月以上かかるケースもあるため、スケジュールに余裕を持った事前準備が必要です。

⑤ スタッフ・患者への説明と引き継ぎ計画

買収後の“最も大きな経営リスク”は、スタッフや患者が離れることです。
そのためには、

  • 承継前から段階的な説明機会を設ける
  • 給与・勤務条件の維持方針を明示
  • 新院長のビジョンを共有し信頼構築

といったソフトランディングの仕組みが極めて重要です。スムーズな承継には、買収前から6ヶ月〜1年かけた関係構築が理想的とされています。

M&A活用による複数院展開・法人戦略

2020年代に入り、「1院だけで経営する」時代から、「複数拠点・法人化によるスケール戦略」へと移行が進んでいます。特に、

  • 医療法人グループによる診療所買収
  • 若手医師による承継開業+法人化
  • 投資家と連携した医療M&Aスキーム(いわゆる事業ファンド型)

といった資本と専門性を組み合わせた医療経営モデルが台頭しています。また、「譲渡先が見つかるまで1年超かかる」ケースが過半数を占めるという現状から、承継は“出会い”と“準備”のタイミングが命であり、医師キャリアの中長期設計の一環として捉える視点が求められます。

M&Aは「医療経営の新しい選択肢」

クリニックの承継M&Aは、単なる「閉院回避の手段」ではなく、次世代の開業医にとって経営戦略・資産形成・地域貢献を実現する現実的な選択肢です。事業としての医療経営を見据え、

  • 正確な情報収集
  • 適切なパートナー選定
  • 専門家の支援体制

を整えたうえでM&Aを活用すれば、失敗のリスクを最小化しながら、確実なスタートと安定経営を実現することが可能になります。

4. 売却価格・のれん代の検討と事例分析

~「いくらで売れるのか?」ではなく、「いくらで引き継ぐ価値があるか」が重要~

クリニックのM&Aにおいて、買い手・売り手ともに最も気になるのが「売却価格」と「のれん代(営業権)」です。これらは単なる金銭交渉ではなく、クリニックの無形資産に対する正当な評価として、慎重かつ合理的に検討する必要があります。本記事では、価格算定の考え方、相場感、評価に影響する要素、そして実際の売却事例から導き出される傾向をもとに、承継開業における“価格の見極め”について解説します。

■ 売却価格の内訳と構成

クリニックの売却価格は、主に以下の3つから構成されます。

項目内容特徴
① 有形資産価格医療機器、備品、内装など中古市場価格・減価償却が基準
② のれん代(営業権)患者基盤、評判、スタッフ、収益力など無形価値、最も価格に幅が出る部分
③ 法人価値(医療法人の場合)持分評価、純資産、法人格など持分あり法人では相続税評価額も考慮

■ のれん代とは何か? 医療M&Aにおける意味と位置づけ

「のれん代(営業権)」とは、クリニックの経営実績や地域での評判、患者からの信頼、スタッフ体制、安定的な収益基盤といった“目に見えない資産”の対価です。つまり、単に「ハコを買う」のではなく、「運営状態ごと引き継ぐ」ことへの評価とも言えます。

■ のれん代の相場(2024年時点)

  • 一般内科・整形外科・小児科など一般的診療科:営業利益の1.0〜2.0年分
  • 皮膚科・眼科・耳鼻科など収益性が高い科目:2.0〜3.0年分
  • 在宅医療・訪問診療等:契約患者数による個別評価

※例:営業利益が年間2,000万円あるクリニック → のれん代は2,000万〜4,000万円程度

また、のれん代は「交渉価格」であると同時に、リスク評価にも左右されるため、下記の要素が加味されます。

  • 患者数と新患比率
  • 常勤医師数と依存度
  • スタッフの離職率
  • 診療報酬改定の影響
  • 設備の更新状況や将来投資の必要性

■ 売却価格に影響を与える7つの要素

要素説明
① 立地駅近、競合状況、診療圏の人口密度・高齢化率
② 診療科目自費比率、リピート性、競争の有無
③ 収益力保険点数、診療単価、稼働率、診療時間
④ スタッフ構成長期在籍者の有無、引き継ぎ意欲
⑤ 医療法人か否か法人格の有無、持分の有無、節税効果
⑥ 契約関係不動産契約・リース・外注業者との関係性
⑦ レピュテーション(評判)Google口コミ・地域評価・紹介ネットワークなど

■ 成功事例:売却価格と“価値の裏付け”

事例①:東京都23区内・皮膚科クリニック

  • 年商:9,000万円、営業利益:2,500万円
  • 売却価格:6,800万円(内訳:有形資産800万円+のれん代6,000万円)
  • 特徴:患者数安定、診療単価高め、自費比率30%、スタッフ継続雇用率高

事例②:地方都市・一般内科クリニック(医療法人)

  • 年商:6,500万円、営業利益:1,200万円
  • 売却価格:4,000万円(法人格譲渡)
  • 特徴:競合少、慢性疾患患者多、地域包括ケア参加、法人の持分なし

事例③:地方在宅クリニック・訪問患者100人以上

  • 営業利益:3,000万円(訪問患者安定)
  • 売却価格:7,500万円
  • 特徴:患者契約数が価値の源泉、スタッフ同行継続条件付き、のれん代評価が高い

■ よくある誤解と注意点

  • 誤解①:「のれん代は払いたくない」→ NG
    → のれん代は“時間と労力のショートカット”の代価であり、無償承継は稀です。

  • 誤解②:「簿価=資産価値」→ NG
    → 医療機器などの償却資産は“稼働価値”で評価されるため、帳簿上の価値と市場価値は乖離します。

  • 誤解③:「法人化=高く売れる」→ 条件次第
    → 医療法人は法人格を維持する管理体制と透明な財務が重要。持分なし法人は売却がスムーズな傾向。

■ 価格査定の「可視化」が進む時代

近年では、医院M&Aに特化した仲介会社が過去の取引データをもとにレコメンド価格を提示する動きが拡大しています。また、税理士やコンサルタントによるM&Aレポート(評価書)の作成も一般的となり、買い手の融資審査や税務調整にも有効に活用されています。

  • 「地域×診療科目×売上×利益率」のモデル査定
  • AIによる価格シミュレーション(M&A支援機関によるβ提供も)
  • 銀行・信金が評価を活用した融資判断を実施するケースも増加

■ 価格は“交渉”で決まるが、“価値”で裏付けされる

クリニックの売却価格・のれん代は、「いくらで売れるか」ではなく「どれだけの価値があるか」で決まります。その価値を客観的に示すためには、数値根拠のある評価レポートと、事例分析に基づいた相場観の理解が不可欠です。医療M&Aの世界では、「情報の非対称性(売り手だけが内部事情を知っている)」が失敗の原因になります。買い手・売り手双方が正しい知識と専門家のサポートを得て、価格=納得の価値となるような承継を目指しましょう。

5. 承継開業の準備は3年前からが理想

クリニック承継による開業は、思い立ってすぐに実行できるものではない。希望条件に合致する譲渡案件と出会い、現地調査やデューデリジェンス、資金調達、契約交渉、スタッフや患者との関係づくりに至るまで、多くの準備と時間が必要となる。現実的には、承継開業を成功に導くためには少なくとも3年前から計画をスタートさせるのが理想とされている。

承継開業が長期プロジェクトである理由

承継案件が成約に至るまでの平均期間は、全国の医療M&A事業者の調査によると約12〜18カ月。これは売り手が市場に情報を出してから買い手が現れ、意思決定し、各種手続きを経て引き継ぎを完了するまでの実質的な期間を示している。しかしこの期間には、検討段階での情報収集や市場調査、金融機関との関係構築などは含まれていない。これらを含めると、準備にはおおよそ2年半〜3年は必要になる。

また、希望条件を満たす案件と出会える確率はそれほど高くない。診療科目・立地・売上規模・スタッフ構成・医療法人か否かなど、条件を少し絞るだけで選択肢は一気に狭まる。そのため、案件情報を待ちながら余裕を持って判断できるよう、時間的な猶予をあらかじめ確保することが重要となる。

準備すべき主要なプロセスと所要期間

承継開業にあたり、代表的な準備項目とそれぞれにかかる想定期間は以下の通り。

準備項目内容目安期間
市場・診療圏調査希望エリアの競合状況、人口動態などの調査3〜6カ月
情報収集と仲介選定仲介会社・コンサルタントの比較検討2〜3カ月
候補案件とのマッチング譲渡側との面談・資料確認・現地視察6〜12カ月
デューデリジェンス財務・法務・労務・不動産契約などの精査1〜2カ月
資金調達準備融資計画、事業計画書作成、金融交渉2〜6カ月
許認可手続き保健所・厚生局などとの手続き対応2〜4カ月
スタッフ・患者対応承継後の説明、関係構築、引き継ぎ3〜6カ月

これらのプロセスは、1つでも後手に回ると全体スケジュールが後ろ倒しになり、理想のタイミングでの開業が難しくなる。したがって、全体を逆算して動く計画性が求められる。

医療法人承継にはさらに時間がかかる

個人事業のクリニック承継よりも複雑なのが、医療法人の承継だ。医療法人は理事・社員の変更手続き、持分の有無に応じた評価、登記・届出、法人契約の引き継ぎ、社会保険手続きなど多段階の法務処理が必要となる。とくに持分あり医療法人では、株式に類似する価値評価が必要となり、相続税対策を含むコンサルティングも必須となる。また、承継後に法人名・診療所名を変更する場合は、広告媒体の修正や再認知活動にも時間とコストがかかる。こうした法的・実務的な手間も含めて、医療法人の承継には個人事業よりも多くの準備期間を見込むべきである。

親族外承継と若手医師のM&A開業の増加中

かつては、クリニックの承継といえば親族への継承が主流だった。しかし近年では、医師の子どもが医療系の進路を選ばないケースや、都市部への人口集中が影響し、第三者承継が全体の7割以上を占めている。一方で、都市部の開業競争が激化する中、30代〜40代の若手医師が地方都市での承継開業を選ぶ事例も増えている。これは、「設備・患者・スタッフが整った状態でスタートできる」ことに加え、「金融機関からの融資が得やすい」という背景もある。実際、ある信金の調査では、事業計画と買収対象が明確な承継型開業の方が、新規開業よりも融資の通過率が15〜20ポイント高いという結果も報告されている。このような市場の変化を踏まえても、情報収集と候補案件の精査には時間をかける価値がある。

承継後の成功を左右する「関係性構築」

意外に見落とされがちなのが、承継後の現場運営における人間関係づくりである。いかに立地や利益条件が良くても、スタッフとの信頼関係が築けなければ、退職・士気低下・業務停滞などのリスクが現実のものとなる。承継前からの院長との連携、スタッフとの面談、診療理念の共有、患者への告知タイミングなど、細やかな配慮が必要である。これらは一朝一夕で整うものではなく、少なくとも6カ月前から関係構築を意識した準備を進める必要がある。

情報収集・関係構築・資金調達は3年前からが鍵

クリニック承継は、単なる不動産や設備の取引ではない。経営の仕組み、人のつながり、信頼関係を引き継ぐという意味で、開業の中でも非常にデリケートかつ戦略的な行動が求められる分野である。希望条件を満たす案件と出会える確率が限られている以上、成功の可否は「いつから動き出したか」に大きく左右される。3年前というタイミングは、決して早すぎることはない。むしろ、最適な出会いと確実な引き継ぎのためには、それが最低ラインだと捉えるべきである。準備期間の有無が、その後10年、20年続くクリニック経営の質を決める。承継開業を考えるなら、まずは今日から情報収集を始めることが最も合理的な第一歩となる。

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